大判例

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東京高等裁判所 昭和34年(う)394号 判決

被告人 藤井初男

〔抄 録〕

刑法第二百十一条にいわゆる業務とは、人の社会生活上の地位に基いて継続的に従事する事務であつて人の生命身体に対する危険を伴うものを指称し、その事務について法規上官庁の免許を必要とする場合にも免許の有無を問わないものと解すべきである。従つて被告人においてその性質上ある程度の危険を伴う普通乗用自動車の運転をする事務を社会生活上の地位に基いて継続反覆して行い又は一回でも継続反覆の意思を以て行つた事実が存すれば、被告人が右普通乗用自動車運転の免許を有しなくても、被告人はその運転を業としている者に該当することは言を俟たない。しかし原判決挙示の証拠によれば、被告人は、昭和二十九年一月頃から東京都江東区南砂町六丁目三十九番地酒類販売業伊勢吉こと藤井保雄方に店員として雇われ、近所は自転車で遠方はスクーターで注文取り、商品の配達、集金等に従事していたところ、偶々昭和三十二年一月一日、正月休みを利用し、友人より自家用普通乗用自動車を借り受け、田村貢外四名を同乗させ自らこれを運転し、東京都江東区錦糸町より埼玉県本庄市に赴く途中原判示場所で原判示の如き事故を発生せしめたことを認めることができるけれども、被告人が普通乗用自動車運転の業務に従事していたこと、即ち社会生活上の地位に基いて該自動車の運転を反覆していたこと又は将来これを継続して行う目的を以て運転したことは、いずれもこれを確認し得る証拠はない。尤も前記各証拠によれば被告人は、昭和三十一年八月頃友人の運転する乗用自動車に同乗して箱根に行つた際、その帰途たまたま約二粁位を運転したことが窺われるが、ただそれだけでは被告人の本件運転を自己の生活上の地位に基き反覆継続して行う意思に出たものということはできないし、また被告人が自転車又はスクーターで注文取りや商品の配達に従事していた事実があるからといつて、被告人が社会生活上の地位に基き反覆継続する意思を以つて普通乗用自動車の運転をしたものということもできない。故に被告人が自動車運転の業務に従事していたということはできない。従つて被告人は自動車運転の業務に従事していたものと認定した原判決には理由のくいちがいがあるものといわなければならない。論旨は理由があり原判決は破棄を免れない。

(岩田 渡辺辰 司波)

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